人形劇
長い伝統を誇るチェコの人形劇は、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。木彫りのマリオネット、あるいは指を入れて動かすパペットは、少し大きめの土産物屋であれば、どこでも手に入れることができるのはご存じのとおりです。でも人形劇を今もなお実際に見ることができるという事実はご存じでしょうか。チェコ国内にはプロのマリオネット劇団が9つ、インディーズ・グループが約100団体、そしてアマチュア劇団が約300存在します。  

チェコの人形劇の歴史 

チェコの重要な文化遺産で、社会的役割も担っていた人形劇が、世間一般に大々的に広まったのは19世紀半ば以前のことでした。但し、現在のチェコ共和国内の各地方で人形劇が人気を博し始めたのは、その100年も前のことです。
 
人形遣いは町から町へと渡り歩き、チェコ語で演じていたので、庶民のチェコ語レベルを向上する役割も果たしていました。次第に人形遣いの伝統が家族単位で形成され、人形劇がその家系の技能として受け継がれていくようになりました。人形は自分たちで制作しましたが、その形態はバロックの彫像を基調としたものでした。人形遣いは一人で全ての人形を動かし、一人で全役をこなしていました。こうして糸繰りのマリオネットのぎごちない動きを変化に富んだ声で補う、絶妙なバランス感覚が養われていったのです。チェコの人形喜劇における伝統的な登場人物は、道化者と悪魔、王様、そして王女様です。以前は人形劇のモチーフは民俗伝承が主でしたが、現在はその大半が子供向けに制作されたものとなっています。
 
チェコの人形劇の伝統は、現在民俗あるいはアマチュア劇団、そして各劇場やインディーズ系の舞台で公演されるプロの人形劇団の2つの潮流において継承されています。20世紀後半には、テレビでも子供向けの短い童話を人形劇にアレンジしたものが放送されるようになりました。マリオネットの形を借りて演じられた登場人物は、現在も子供たちの人気キャラクターに数えられています。
 

人形劇とマリオネット博物館 

国内にはマリオネット博物館もいくつかあります。こうした博物館、あるいは人形劇の公演を実際に訪ねて、貴方もチェコの人形劇の伝統を肌で感じてみませんか。
 
人形劇は子供向けが主体で、その大半が翻訳なしのチェコ語で演じられています。公演は、プラハ、あるいはモラヴィアの都市オストラヴァなどで鑑賞できますが、これらの都市にはマリオネットシアター専門の劇場もあるほどで、人形劇が町の一部を形成しています。
 
東ボヘミアの町・フルジム人形劇文化博物館では、古今東西のマリオネットが鑑賞できるばかりでなく、自らマリオネットを動かして人形劇に挑戦することもできます。館内には流浪の人形遣いが用いたマリオネットや様々な形態のマリオネット、家族劇団の人形劇、チェコ人芸術家による装飾などが展示されており、またインドネシアのシャドーパペット、インド、日本、中国、ビルマのマリオネット、あるいはベトナムのウォーターパペットなど、外国の人形劇芸術を紹介するコーナーもあります。
 
マリオネットの世界は、南ボヘミアプラハチツェでも体験することができます。展示第一部では、チェコ人形劇創始期のマリオネットや、家族劇団、合同劇団、そしてプロの劇団に至るまで様々な人形劇団が用いたマリオネットが紹介されており、伝統的な悪魔、道化者の他、チェコを代表する芸術家がデザインしたマリオネットも見ることができます。コレクションはいずれも、プラハの国立博物館の所蔵品です。
 
チェコの人形劇の伝統は、様々なフェスティバルでも紹介されています。中でも1951年に開始されたフルジム人形劇フェスティバルは、現在この種のイベントとしては欧州最古のものとなっています。このほかプラハの国際人形劇芸術祭、オストラヴァのスペクタクロ・インテレッセ国際フェスティバルなどもあります。