本の香りに魅せられて
春、3月、4月は本、作家、図書館と深い関わりのある季節。チェコでは3月が、世界的には4月が読書月間とされています。正確な時期はいつであれ、重要なのは詩や散文、そして知識の世界にともかく足を踏み入れてみること。ここではチェコの本に関わる情報をご紹介いたしましょう。

世界で最も美しい図書館 

プラハ旧市街の中心部に位置するクレメンティヌムのバロック式図書館は、様々な世界ランキング、投票でしばしばトップを占めており、一般に世界で最も美しい図書館とされています。有名なバロック建築家キリアーン・イグナーツ・ディーツェンホーフェルにより建てられたもので、1722年よりイエズス会の神学校として使用されていました。今日バロックの図書館ホール内には、主として神学の書物が約2万冊納められています。ここは現在、図書の貸し出しをする一般の図書館としては機能していませんが、近代初期の知識・教育の様子を今に伝える非常に貴重な史跡となっています。ここでは歴史的な書籍のほか、古い地球儀のコレクションも見ることができます。クレメンティヌムは現在、国内最大にして最古の公的図書館・チェコ国立図書館の本拠地となっています。ここではほぼ一年中毎日見学が可能となっており、英語でのガイドツアーもお選びいただけます。



同様に世界の美しい図書館ランキング上位の常連となっているのが、フラッチャニストラホフ修道院ストラホフ図書館です。これは2つの広間から成っており、それぞれが全く異なる雰囲気を湛えています。現在の外観は、やはり18世紀・バロック時代の改築により得られたものです。ここに収められている書物の中でも最も貴重なものとしては、ストラホフ福音書が挙げられます。これは860年頃に書かれたもので、チェコ国内で最も古い本の1つに数えられています。ストラホフ図書館もまた見学可能となっていますが、歴史的書物の保存のため、その頻度が限られています。そのためご希望の方はストラホフ修道院のウェブサイトにて、必ず事前に予約してください。

暗い小路、あるいは少女時代を過ごした場所 ― 万人のインスピレーション源 

チェコ国内で生まれた最も有名な作家は誰かと聞かれたら、恐らく誰もがフランツ・カフカと答えるでしょう。20世紀初頭を代表する作家・カフカが残した作品は全てドイツ語で書かれていますが、その生涯の大半をプラハで過ごし、この町で創作活動のインスピレーションを得ていました。暗い中世の小路宮殿、そしてこれらが醸し出すコントラストなどなど、100年前のプラハで目にして感じたこと全てが、カフカの代表的作品の中で昇華されています。またカフカの創作意欲はプラハのみならず、チェコの田舎でも掻き立てられており、当時牧歌的な山間の町であったシュピンドレルーフ・ムリーンでは、「城」の執筆を開始しています。



19世紀の作家、ボジェナ・ニェムツォヴァーもまた、チェコを代表する文学者の一人です。チェコの女流作家としては、最も多く翻訳がなされており、160年以上前に書かれたその代表作「おばあさん」は、31ヵ国語に訳されています。この作品はニェムツォヴァーの少女時代を題材にしたもので、自身のおばあさん、そして東ボヘミアのラチボジツェで過ごした日々を理想化した形で描いています。現在ここでは「おばあさん」の記念碑や記念館を見ることができ、また作品の舞台となったラチボジツェ城を見学することもできます。



ここで特記すべきは、ヤン・アーモス・コメンスキー(コメニウス)で、作家とは言い難いですが、民族の教師と言われる人物です。コメンスキーは、17世紀の人文主義者にして、聖職者、神学者、哲学者、教育者、そして学者でした。学術部門としての教育学の基礎を築き、数々の本を執筆しました。その代表作としては自身の世界観と現世の法則を考察した「現世の迷宮と心の楽園」、そして当時画期的な教科書として話題を呼んだ「世界図絵」が挙げられます。コメンスキーの時代、17世紀の書籍印刷の雰囲気に触れたいという方は、是非ヴェルケー・ロスィニ製紙工房をお訪ねください。ここは今も操業している製紙工房の中で最も古いものの一つに数えられています。この工房で手作業で紙をつくり上げていく様子をご覧になれば、17世紀当時の製本がいかに大変な作業であったか、実感していただけることでしょう。

主役は本 

国際ブックフェア&文学祭「ブック・ワールド・プラハ」は現在例年通り開催に向けて準備中。今年もプラハ見本市会場で69日から12日まで開催されます。ここでは今回もまた世界各国の文学、そしてもちろん現代チェコ作家の作品が紹介されます。イベントには毎年30を超える国々から400ほどの出展者が参加しています。愛書家の方々は、ブック・ワールド・プラハをどうぞお見逃しなく! 

チェコの本・文学あれこれNo.1 

チェコ国内所蔵最古の本:8世紀末にレーゲンスブルクで書かれた典礼用詩篇の一部。クレメンティヌムの国立図書館所蔵 

チェコ国内で書かれた最大の本:13世紀に東ボヘミア・ポドラジツェの修道院(修道院は現存していない)で書かれたギガス写本。重さ75 kg、高さ約1 m。スウェーデンのストックホルム図書館所蔵 

最も多くの言葉に翻訳されたチェコ人作家:ミラン・クンデラ パリ在住のチェコ人作家 

最も多くの言葉に翻訳されたチェコ文学:ヤロスラフ・ハシェックの「兵士シュヴェイクの冒険