チェコは、他でもまずお目にかかれないような、ユニークな見所に溢れた地。壮大なプラハ城、あるいは南モラヴィアの美しいブドウ栽培地帯などもさることながら、典型的なチェコのビアホール - 絶妙に冷やされた生ビールをメインに提供するレストラン -もまた、こうしたユニークな場所の1つに数えられています。各店のビールは、その原料ではそれほど大きな違いはありませんが、醸造技術、そして正しい注ぎ方の厳守の程度により、その味わいが異なっています。ここではチェコのビール醸造の伝統、ビールそのもの、そしてミニ醸造所から有名なビアホールに至るまで、本場のビールが味わえる様々な場所をご紹介いたします。
チェコ最古の醸造所+ビアホール
チェコ最初で最古のビール醸造所は、993年に創設されたプラハのブジェヴノフ修道院に属するものでした。修道院内の醸造所の存在を示す記述が最初に現れたのは、13世紀に書かれた古文書内ですが、ここでのビール醸造の開始時期は、修道院の創設時期とほぼ一致すると考えられています。しかしながら中世および20世紀においても、修道院とそのビール醸造所が廃墟と化した時期があり、ビール醸造の伝統は中断されてしまいます。そのため、この修道院付属醸造所は、「現在も機能している世界最古のビール醸造所」の候補にはなり得ません。その代りここでは現在、旧厩舎でビール醸造がなされており、その見学も可能となっています。またその場でベネディクトと名付けられた地ビールを買うこともできます。通常のラガービールのほか、ここでは様々な種類の麦芽、ホップを使用したスペシャル・ビールも何種類か醸造されており、これらのビールは全てレストラン「クラーシュテルニー・シェンク」(Klášterní šenk、修道院の居酒屋の意)あるいはビアホール「クラーシュテルニー・スィープカ」(Klášterní sýpka、修道院の穀物倉の意 )でお楽しみいただけます。特に後者はビールの美味しさのみを売り物にする、正真正銘のビアホールと言えます。プラハ伝説のビアホール
歴史と伝統あるビアホールが数多く集まる場所と言えば、やはりプラハの他にないでしょう。まずは繁華街、ヴァーツラフ広場の近くに位置するビアホール「ウ・ドヴォウ・コチェック」(U dvou koček、2匹の猫の意) にて、ピルゼン・ビール、あるいは「コチカ・ビール」を試してみてください。この店は1678年開業、以来数世紀に渡ってここで温かい料理と冷たいビールを提供し続けています。ここではプルゼニュのピルスナー・ウルケルに加え、専門の職人が店の玄関ホールで自ら醸造するオリジナル・ブランド、「コチカ」ビールもお楽しみいただけます。ここはアマデウス・モーツアルトのお気に入りの店だったことでも知られており、ここで夜を過ごすモーツアルトの姿がよく見られたとか。それもそのはず、プラハ滞在の際モーツアルトはしばしば店の向かいの家を宿にしていたのです。2番目にご紹介するのは、旧市街広場近く、フス通りに位置する「ウ・ズラテーホ・ティグラ」(U zlatého tygra、黄金のトラの意)です。絶妙のピルゼン・ビール、そして店の常連で作家のボフミル・フラバルが、その作品の中でしばしば記述した独特の雰囲気により、この店はビール好きにとって伝説の場所となっています。チェコの初代大統領、ヴァーツラフ・ハヴェルも大のビール好きでしたが、1994年、当時のビル・クリントン米大統領のチェコ公式訪問の際、1晩「ウ・ズラテーホ・ティグラ」で過ごしたことがあります。今もここでは、美味しいビールと食事でチェコ、米国の大統領を非公式にもてなした様子が誇らし気に語り継がれています。この店のおすすめ料理としては、特にスペシャル・メニューとして知られているビール・チーズが挙げられます。ウ・ズラテーホ・ティグラは、ビール・チーズの定期納入を開始した最初の店だったのです。貴方も是非一度お試しください。21世紀のモダンなビアホール
ビアホール、醸造所の中には、伝統より最新の設備、スタイリッシュな内装により重点を置いているものもあります。その代表的なものとして挙げられるのが、ビアホール・チェーン「ロカール」です。ここではピルゼン・ビールをサーブしていますが、その際ビールに対して1件たりともクレームがつかないことを売りとしています。このようにビールに関連して最大級のサービスを提供している店は、現在大きな町であればどこにでも1軒は存在していることでしょう。ビールは多くのチェコ人にとって、最も典型的なドリンク。貴方がビールを楽しむ場所がロマンチックな小さな居酒屋でも、あるいは超モダンなガラス張りのレストランであったとしても、リピーターとなる要素はいたるところで見出すことができます。ビアホール付きミニ醸造所
チェコには、ビールのミニ醸造所、クラフトビール醸造所が約500軒存在しますが、その中には自社直営のビアホール、あるいは提携しているビアホールでその製品を提供しているところも数多くあります。例えば、プルゼニュのクラフトビール醸造所「ラヴェン」(Raven)。ここでは最近の世界的トレンドに従い、上面発酵ビールを作っています。ラヴェンは、その設立からまだ数年間しか経っていませんが、その間にチェコのクラフトビール部門でトップクラス入りを果たし、現在チェコ国内各地のビアホール、および国外のパブでも同社のビールをお試しいただけるようになりました。中でもおすすめの場所は、やはり地元プルゼニュにある同社直営店「ラヴェン・パブ」(市内に2軒あり)です。チェコではまた、山でビールを楽しむこともできます。中でもクルコノシェ山間の村、マラー・ウーパにあるビール醸造所「トラウテンベルク」(Trautenberk )は是非お試しください。標高1,045 mに立つ山荘がその拠点となっていることから、チェコで最も高いところに位置するビール醸造所とされています。ここでは伝統的なラガービールのほか、最新のトレンドに沿ったIPA、あるいはエールビールなどもサーブされています。また事前に予約すれば、醸造所の見学も可能です。